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2009年4月27日月曜日

試行が好き

以前面白そうとだけ書いた「封建制の文明史観」を読んでみてかなり拾いモノと思っている。今までの既成概念がなんであったのか、と思うことが多い本だ。焦点の宛方がまずユニークであるのだ。ヨーロッパ、中東、中国などアジア大陸、日本などで、ジンギス・ハーンやフビライ・ハーンの蒙古=元の襲来に抵抗でき、事実上勝利した地域と完全に蹂躙された地域を比較して、論旨を展開しているところにある。日本とドイツ(当時フランク王国)、エジプトが、当時武士や軍人の雇用など人事的に、かつ土地の管理施策が封建制と言われており、その三地域だけが蒙古に勝利している史的事実から、封建制に注目しているわけなのだ。なぜ、怒濤の蒙古軍に勝てたのか。敗北し軍門に下った地域は官僚制か貴族社会、または、封建時代にまで達しない未開の地域であったという。因みにベトナムへは、日本より多い3度元寇があったがそのたびに撃退したらしい。ベトナム・チャンパ連合で元寇と闘ったその当時の社会体制はどうであったか、近々調べておきたい。日本へ来た元寇が神風で撃退されたと言われてきた。果たしてそうか。直接の敗退原因は台風ではないらしい、という新しさも実はここで語られている。

また、封建制の言葉の定義も重要だろう。中国から来た言葉であるわけで、儒学寄りのつまり中国に範を求めた封建制の当てはめと、ヨーロッパのフューダリズムを封建社会とほぼ誤訳で翻訳した福沢諭吉ら、はたまた、大隈重信、小泉八雲、藤村藤村、亀井勝一郎、日本のマルクス主義者の一群、などの封建制を巡る論争があったらしい。僕らは通常「それって封建的だよね」とかという漠然とした「悪者論」だけを、戦後の教科書で学習してきたわけで、封建制の新しい視点での照射がワクワクする。脳の中で凝固させていた思い込みをそろそろかち割りたいという考えが強くなっているようだ。そういえば、早稲田の活動で一緒だった呉智英さんは、何と25年前ぐらいに「封建主義者かく語りき」を上梓していた。流石だな。さあ、後半が楽しみだ。例の「カラマーゾフの兄弟 第四巻」はまだ213ページ。何故か進まないなあ。

さて、今日から満を持して「たのしいにほんご」つまりKIDSの日本語教室がハノイで始まったのである。児童は8名、ささやかな出発である。当校は今まで優良理工系大卒者に日本語と日本のシステム・企業のシステムを教えてきた。そういう意味ではかなり試験的ではある。言わば、試行だ。どうでも良いが吉本隆明の「試行」誌を思い出す。で、ハノイではおそらく初めての試みとなった。去年から授業の方法論、教科書、教材、教員、クラス展開の新しい仕組みや人材の投入に工夫に工夫を重ね、議論し選択してきた。残念ながら今日僕は東京だが、教員とスタッフ全員の協力で、とても楽しい第一回目の2時間を送れたようだ。親御さんも今日は全員参観したようだ。大変有り難いことである。

僕たちは理想を持っている。当面はこのKIDSの教室を塾のように発展させ、日本留学を促進させ、教育の交流を本格化を計る。更に5年後には日本で言う私立の中高一貫校的な学校を設立し、日本の高校や大学を堂々と受験で突破し、留学を果たせる体制を構築して行きたいと思っている。ベトナムの児童、生徒、学生が本当の意味でアイデンティティを堅持し、留学生して日本社会をつぶさに体験して欲しいのだ。さらに近い将来優秀なエンジニアや教員、研究者、ビジネスマンになって帰国し、何より母国で活躍をして貰いたい。それが、ベトナムの未来を形づくる大きな要素であるからだ。日本は老人社会である。最近は山手線に日中乗車すると、50代、60代、70代の元気な老人たちで溢れている。この老人社会に手をさしのべてくれる国はアメリカでもないし、中国でもない。

それは8500万人の人口の半分は25歳以下と言われるベトナムの若者たちである。特に介護や看護だけでない。産業界、学門・研究分野もやる気のある優秀な青年を強く求めている。構造的技術者不足の産業界はこの世界同時不況を脱出後、一斉にエンジニア獲得に走ることになる。中国や韓国の青年も有力だろう、立派な若者は多い。ただベトナムの優位性は靖国問題も教科書問題もないということ、また、中国のような拝金主義にはまだまだ堕してはいない。まじめで温厚な性格の人が多いと評価が高い資質にその優位性が在ろう。

僕たちは、その優秀で評価の高い社会で育った児童、生徒、学生に日本語を教えている。そして、しばらくすると、日本語で日本と世界を教える段階も来よう。正直にいうとそのステップは意外に早く来る予感がするのだ。本日教壇にたった教員は10年前ボランティアでカンボジアの子供たちに教えていたそうで、「今日、自分の原点を想起した」と報告をくれた。「面白かった」とも言っていた。そりゃあそうさ。毎日が試行だし、無垢な瞳に囲まれての授業が楽しくないはずがないものね。

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